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調査No.000004 ・・・・(掲載 98.6.2)

○.退職した元役員の動向

 大手コンピュータソフト会社の総務部長から電話が入った。
 いつもの明るい声ではなく、低い声で「相談したい事がある」と周りを憚っている様子。
 早速新橋駅近くの会社へ急行した。 会社入口の受付で、総務部長は立ったまま、タバコをくわえて待ち構えていた。
 灰皿にタバコを押しつけながら「ここではまずい・・・」と駅前の喫茶店へ移動する。
 店内に座ると、周りをキョロキョロと見回し、知り合いが居ないことを確かめてから禿げ上がった大きな顔を近づけて、
「昨年の秋に会社の役員が一人辞めた。その後に若い社員が次々と 辞めている。どこかで新しい会社を始めているのか、又は同業他社へ勤めているのか調べてくれ・・・」 と話し始めた・・・。

 翌日の早朝6時から、元役員のマンション前で若い調査員2名と 共に張込みを開始する。
 建物はオートロック式のマンションで中へ入れないため、玄関付近で人の出入りを観察しながら元役員が出てくるのをじっと待つ。
 7時、8時、9時と一向に出てくる気配が無い。10時迄待った が、やはり出てこない・・・。
 ゴルフ会員権業者を装って電話を掛けてみる。電話に出たのは若い感じの奥さんであった。
「○○ゴルフサービスです。ご主人様はいらっしゃいますか?」
「出張していまして、来週帰ってまいります・・・」
 残念ながら不在だった・・・。

 日を改めて翌週に再度調査を行った。 今回も早朝6時から張込みを開始する。
 今度は9時少し過ぎに玄関を出てくる元役員を確認して直ちに尾行を開始する。
 徒歩で駅へ向かい、定期券で改札を通過、ラッシュのピークを少し過ぎた車内で吊り革につかまって新聞を読む。
 30分程電車に揺られ、品川駅で下車、ゆっくりとした足取りで5分程歩き、広い道路に面した7階建てのビルに入る。
 エレベーターに乗り込み4階で降りる。401号室と書かれた鉄の扉を自分で鍵を開けて中に入る。
 その玄関扉にはボールペンで小さく社名が書いてある。早速、登記所へ直行して会社謄本を調査する。
 その結果、2ヶ月程前に設立登記したばかりの新しい会社で、役員には元役員他に辞めた数名の社員の名前が連なり、営業目的も元の会社と同じ内容となっていた。
 やはり元の部下を引き抜いて会社を作っていたのであった・・・。

 これらの退社独立に関する調査はよくある依頼である。昔の日本人は儀礼を尽くして、のれん分け等の円満退社を心掛けたが、現代の社会では人を裏切って独立しても、その情報が正しく伝わらないために平気で社員の引き抜きや裏切り行為がおこなわれる。
 そういえば数年前にテレビのCMで 「職業選択の自由アハハーン・・・・・」 と浮かれていた時代があった。
 この頃から日本人にモラルは無くなった・・・。
 悪い世の中になればなるほど調査は必要になる・・・。

※実際の調査を題材にしました。
 但し、地域名・団体名・氏名等は変えてあります。